地図とコンパスを手にチェックポイントを探していくスポーツのオリエンテーリング。
その地図はスタート時に渡されて初めて見ることができます。このスポーツで最も大事なツールとなる地図。
地図といってもいろいろな種類の地図があります。一般に馴染みがあるのはおそらくGoogle Mapやカーナビの地図などかと思います。登山やハイキングをするときには国土地理院の地図や登山用の地図を使うこともあるでしょう。
オリエンテーリングにはオリエンテーリング用の地図があります。通称O-MAP(おーまっぷ)。本日はこのO-MAPについて説明します。
O-MAPとは
まずは見ていただきましょう。
これは私が大会に参加した際の地図ですが、O-MAPにコースが印刷されています。△がスタート地点、○がチェックポイント、◎がゴールとなっており、チェックポイントの脇に描いてある数字がチェックポイントを通過する順番となっています。
この地図の縮尺は1万分の1で、地図全体で東西2.5km、南北1.5kmくらいの範囲です。
それではどこが専用の地図なのかを見てみます。
まずは上の地図の南東の部分を見てみます。
そして、同じ範囲の国土地理院の地図
「あっ、昔社会科の授業で見た」という方もいるかもしれません。
とにかく全然違うということはわかると思います。
O-MAPの特徴
国土地理院の地図と比較したO-MAPの特徴として
(1)様々な色が使われている
(2)等高線が細かい
(3)一般的な地図記号がない
また、よく見ないとわからないですが、O-MAPは普通の地図よりほんの少し右に傾いて描かれています。
普通の地図は真北が上になるように描かれていますがO-MAPは
(4)磁北が上になるように描かれている
という特徴があります。
磁北というのは方位磁石が指す北の方向です。普通に北というと北極点を指すのですが、方位磁石は磁北点というところを指しており、北極点からは少しずれています。傾きは場所によって異なりますが7度前後です。詳しく知りたい方は以下を。
これらのO-MAPの特徴はオリエンテーリングという競技を行うにあたって必要な情報は詳細に表し、不要な情報は削って作られてきたことからできてきました。
また、普通の地図とは異なるといってもバラバラにいろいろな情報を取捨選択した地図を作られると参加者が混乱してしまいます。そこで、世界的にO-MAPの地図作成基準がありそれに則って地図が作成され、海外に行ったりしても見たらすぐにわかるようになっています。
オリエンテーリングに必要な地図の条件とは
なんでこのような地図が競技に必要なのかオリエンテーリングをしたことがない人にはわかりにくいので競技の特徴を簡単に説明します。
オリエンテーリングでは主催者が定めるチェックポイントの通過が義務付けられていますが、チェックポイント間でどこを通るのかは参加者自身が決めてよいということになっています。(立入禁止と示された場所はのぞく)
競技としてはどれだけ短い時間でゴールをするかを競っていますので、どこを通ったら早く次のチェックポイントに行けるかがカギとなります。
チェックポイントによってはどう考えても道を伝う以外ないような設定もありますが、上級者レベルになるとそもそも道がない山の中を通るコースも多くあります。
「道のない山の中を通る」というとサバイバルレースのようなイメージを持つかもしれませんが、そういうことはほとんどなく、例えばこんな感じです。
こういった場所で「300m先のチェックポイントに行くんだ」と思って適当に行ってたどり着ける可能性はほとんどありません。チェックポイントの10m脇を気づかずに通り過ぎるということも珍しくなく、わずか300mのために30分くらいうろつき回るといったこともあります。
そうならないためには、まずは「迷いにくいルートを考え」、「地図上で自分がどこにいるのかを確認しつつ」チェックポイントに向かうことが必要です。
そのために必要なのが、「必要な現地の情報が記載されて」、「正確な」地図なのです。
O-MAPにはどんな情報があるのか
O-MAPに記載する地図の情報(特徴物)は5つのカテゴリに分けられてそれぞれ色を分けて記載されます。そして、チェックポイントは何らかの特徴物に設置することになっています。
O-MAPの特徴物
(1)地形
等高線や穴などです。茶色で表します。詳細に地形を表示するため、5m間隔で記載されます。(一般的な地形図は10m間隔など)
実はオリエンテーリングの競技では最重要と言えます。
(2)岩と石
岩や石や崖などです。黒で表します。
崖は黒い太い線にひげが出てます。
(3)水と沼
川や沼などです。青で表します。通行可能かも表記されます。
通行可能かどうかはとても重要で、通行可能な小川などであればまっすぐ行って渡るルートがとれますが、通行不能な川の場合には橋などの渡る場所をルートを考えなければなりません。
(4)植生
森や開けた土地、耕作地などです。緑や黄色で表します。
植生については通行可能度がわかるようになっています。
同じ林でも上にある整然とした林とヤブでは通り抜けるのにかかる時間が圧倒的に違います。
地図にあるこの色の違いをたよりにヤブを避けるルートを考えたり、実地でその境目を頼りに現在位置を把握したりします。
濃い緑の部分は基本的に避けるようにします。
(5)人工特徴物
道路や建物です。もちろんわかりやすいのでこれをたどったり目印にします。
二重線や点線や線の太さで道の幅も表します。
建物は実寸に合わせて記載します。
O-MAPの見やすさ
このような情報は詳細に盛り込めば盛り込むほどよいというわけではありません。
少し暗い森の中を走りながら地図を読むわけなので細かい情報がありすぎると見てもよくわからなくなります。
道や川や等高線などはある程度細かく正確に記されていてもよいのですが、岩や穴などはそもそも実際の大きさと地図上の大きさは異なっています。例えば穴については大きさに関わらず地図上は12mのサイズで表記されます。
小さな穴だらけの場所になると何がなんだかわからない地図になるため、最小寸法というのが決められていて、それ以下のサイズの特徴物は地図上では省略されることになっています。
興味があるかたはこちらもどうぞ。細かく見ると頭が痛くなるのでパラパラ見てみてください。
O-MAPの作成について
このような決まりに従ってO-MAPは個別に作成されますが、実際に現地に足を運んで調査をしないと作成できず、非常な労力がかかります。また、作成者に十分な技量がないと正確に作ることができません。
元になる地図はありますが、通常の地図とO-MAPではあまりにも情報量と正確性が異なります。また、調査した内容を正確に地図に描くのもまた簡単ではありません。
しかし、最近はGPSや航空レーザー測量といった技術によって作成の手間の削減や地図の正確性の向上が図られているようです。
私は正直なところきちんと調査や作図をしたことがないので使わせてもらう一方ですが、O-MAPの作成を仕事にしていたり、地図の作成が大好きなオリエンティア(オリエンテーリグをする人)もそれなりにいるのでたくさんのO-MAPが作られ、競技会が開催されています。
私としてはそのようなマッパー(作図者)の皆さんに感謝の言葉しかありません。